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書籍考 その3 「進化する強さ」 クルム伊達公子 [書籍考]

書斎 1.JPG「進化する強さ」 クルム伊達公子著 2012年3月発刊 ポプラ社

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 伊達選手が世界で戦っていた約20年前、私もプロテニス業界で役員をしていた関係上、国内外の大会会場で伊達選手の魅力あるプレーは必ず観ていましたし、同時代の選手や大会関係者からの伊達選手の評価・評判は沢山耳に入っていました。世界のトップ10という場所は少しでも弱さを見せたら負け、気を張って必要以上に「強がり」「強気」で行かないと戦えない場所、「自分勝手」「無礼な」「勝気」と受け取られても、選手同士、メディア、大会関係者や自分のスタッフにまでも虚勢を張って強い自分を出して行かないといけないと思いこんでいた様です。「しんどかった」と本音を語っていました。伊達選手のこの本を読んで「やっぱりそうだったか」、「もっともっとキャリアを積み上げられたはず、テニス界の宝で有った伊達選手にもっともっと輝いて貰えたはず」と、テニス界の末席に身を置いていた己を恥じてしまいました。今現在活躍の、そして近い将来世界へ羽ばたこうとしている若い世代に、同じような環境を与えない様にテニス界が一つになって後押しをしたいものです。
 第1章の「心はいつも進化を求めている」から始まり、第10章の「明日はかえることができる」まで、1コラム2頁、90弱のコラムが10テーマに分けて構成。伊達選手は第2のテニス人生を、"復帰"ではなく"新たな戦"と、チャレンジし続ける伊達選手の姿は挑戦が人生を楽しくさせる、との強い思いが伝わってきます。『挑戦しないのは既に負けている、挑戦しないことで後悔はしたくない』と。
 芯が通っていてぶれない考え方、自分らしさを追求し続ける探究心、人間力の高さ等が醸し出しているお人柄が全身からにじみ出る。強さとあのチャーミングな笑顔の女性らしさとのバランスがいいですね。4月27日のブログにも書きましたが、「一流の選手を前にすると辺りの空気は一変してしまうものなのです」。私が個人的に感じた、空気を一変させる様な、素敵で魅力的な一流日本人選手は、吉田(旧姓沢松)和子選手とクルム伊達選手です。そして錦織圭選手が次なる候補かな?
 負けず嫌いで、根っからの勝負師とは云え、現在の選手生活を心から本当に楽しんでいる姿を感じさせる立ち居振る舞いは、1996年の引退以降、様々な苦悩や苦労、極度の重圧から解放され一女性として素敵な時間を過ごした復帰までの12年間が有ったからこそたどり着いた境地なのでしょう。伊達さんの書「いつも笑顔で」(2006年マガジンハウス発刊)は、のびのび生き生きした、この12年間の生活の一部を著した書です。
 「進化する強さ」と併せて同社から発刊された「負けない Never give up」は本文の文章の漢字にルビが全て付けられている、小学校高学年から中学生向きの書籍です。
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書籍考 その2 ラファエル・ナダル自伝 [書籍考]

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 「ラファエル・ナダル自伝 MY STRY」 2011年発刊  実業之日本社
 英国生まれで様々なメディアの特派員を歴任し、更に世界の一流新聞社のライターとして世界中で活躍し、2009年に米国を代表する映画俳優のクリント・イーストウッドが監督を務めて映画化した「INVICTUS-不屈-負けざる者たち」(南アフリカの元大統領ネルソン・マンデラの人生と、95年のラグビーW杯で南アフリカ代表が優勝を成し遂げた奇跡を描いた)の原作著者である、ジョン・カーリン氏がラファエル・ナダル選手の口述したものや周辺の人たちが語ったことを、文章化しながら、読みやすく解説をした、と云う事でラファとの共著となったこの一冊。
 これまでに「テニスの女王で終わりたくない=ビリ・ジーン・キング」、「女王の孤独=マルチナ・ナブラチロア」、「私は負けない=モニカ・セレシュ」、「静かな闘い=アーサー・アッシュ」、日本人では「この一球=福田雅之助」、「やわらかなボール=清水善造」、「テニスを生涯の友として=熊谷一彌」、「フォレストヒルズ翔けた男=原田武一」、「白球オデッセイ=佐藤俵太郎」、「忘れられた野村祐一」等、昭和初期に世界でその名を知られた名選手、戦後の名選手の方々では、「わが青春の軌跡=神和住純」、「ナナは微笑みを忘れない=佐藤直子」、「娘たちとテニス=沢松豊」、最近では松岡修造さん、クルム・伊達公子選手、等の伝記や回想録を読みましたが、これらは概ね引退間近若しくは引退後に書かれた書物が一般的です。
 このナダル選手の本は正にキャリア半ばでのもので、生涯グランドスラムを達成するような一流テニスプレーヤーが、試合中にどんなことを考えているのか、その心の中の葛藤が生々しく語られているということでは、テニスをする人にとって、この本はとても興味深いものと言えるのだろう。もしかしたらテニスに限らず、どのスポーツにも通じるものがあるのかもしれない、そういう意味では他スポーツをする人にとっても同じく、興味深いものでした。
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 この本の構成としては、①2008年のロジャー・フェデラーとのウインブルドン決勝での試合の流れと所感、②2010年のジョコビッチとのUSオープン決勝について、③テニスを始めた幼少期から、24歳の若さでキャリア・グランドスラムを達成するまでのことが書かれており、そして自分がプレーヤーとして成功する過程で、家族や仲間の存在について。この大きな流れを、第1章~第9章 に織り交ぜ270頁の力作となっています。 
特に①のフェデラーとのウインブルドン決勝の記述では、5セット、4時間48分に及んだ死闘で、ナダル自身がどのような精神状態にあったのかが詳細に語られ、非常に興味深かったです。
 コートの中のイメージとは裏腹に、実際のナダルは、暗闇や雷、犬さえも怖がり、決断力に欠け、まわりの人にも影響をうけやすい、とてもナイーブな一面をもちあわせている。不安・恐怖があるからこそ、それを拭い去る為に、コートに入る前やコートの中に入ってからも常に同じルーティーンを守り、更には強い自分になりきるようにいいきかせるのだという。コートチェンジの際、ペットボトルを左足の前に1mmの狂いも無く並べ変える光景は異様ですが、スポンサーを気遣って事も有るでしょうが、これこそが彼が守っているルーティーンの中の一つなのでしょう。
 ナダル選手はトッププレーヤーとしては珍しくコーチを一度も変えていません。彼がテニスに出会った幼少のころから指導している叔父で、元テニスプレーヤーのトニー・ナダル氏が、現在に至るまでナダル選手のコーチであり、おそらく引退するまでそうでしょう。幼いラファエルにとっては身内にプロコーチがいたという幸運に恵まれたことは確かです。 
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トニーコーチは
「彼は世界の中での自分の立場をわきまえている。誰もがそうあるべきだ。自分は偉大だと思っていても、世界はもっと大きいのだ。」「すべてを手に入れた人物が他人に横柄に振舞うのは許せない。出世すればするほど、ますます他人に敬意を持って接するべきだ。私も彼の両親も、優れたテニスプレーヤーになる以前に、優れた人物であれと常に言っている」「先ずは、ボールを強く打て、それから其れをコートに入れ続ける方法を考えろ」、と常に語ったと云う。反論の余地無しですね。
裕福な家庭環境に育ち、お金や名誉欲の為に頑張っているのでは無く、只、「闘う事が好き」「負ける事が嫌い」、だからこそ後悔しない為に人一倍努力する。全てのアスリートの鑑の様な選手です。

*人は敗戦から学ぼうとするが、僕は勝利から学ぼうとしている。
*人は僕のことをスーパーマンと云うが、僕は自分をクラーク・ケントだと思っている。
*テニスには短距離走者のスピードと瞬発力、それとマラソンランナーの持久力の両方が
 必要~~。
*決戦の時を迎える双方が、同じ控室を使う競技はテニスだけ~~。
*5歳年上のフェデラーには、難しい事をいとも簡単の事の様にやってしまう才能、理的で気品あるプレーヤーで自分はその真逆だ。
*闘志を内に秘めているボルグ選手、外に剥き出しにするマッケンロー選手、双方の良さを持ち合わせているのが、ナダル選手だ~~。  等々、記憶に残る文章はまだまだ沢山有りました。

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書籍考 その1 「夢中になって読んだ一冊」 [書籍考]

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 私のブログを見て頂ければお分かりと思いますが・・・・、私の趣味は、
テニス(現在は趣味としてプレーしています)、ゴルフ、ワイン収集、食べ歩き、旅行ですが加えて音楽鑑賞や読書も大好きです。
 書籍は、テニス全般(指導・歴史・自伝・随筆)、文化論(スポーツ・日本・国際)関連、経済思想、旧軍関連全般(戦史・事象検証・思想・自伝・小説)、ワイン、紀行書等、雑誌等、結婚以前の書籍は殆ど処分しましたが、その後残しておきたい本が3000冊強の蔵書となってしまいました。

*中学生の頃は、吉川英治氏の「宮本武蔵」、竹山道雄氏の「ビルマの竪琴」、自分の生き様に重ね合わせた中でヘルマン・ヘッセ氏の「車輪の下」等を読み耽った思い出が有ります。

*高校時代はテニス漬けの毎日で、読書の機会はほとんどなく過ごしました。

*18歳~23歳の間は神田須田町の古本屋通いをし、盲目の祖父に日本歴史、日本軍事史、近代思想史、等の本を読んでは聞かせ、それらを解説してもらう日々でした。小説は吉川英治氏の「新・平家物語」、山岡荘八氏の「徳川家康」、舟橋聖一氏の「花の生涯」、司馬遼太郎氏の「坂の上の雲」等が思い出に残る書籍でした。

*24歳~35歳の頃は仕事柄、毎月出るテニス雑誌やテニスに関する書籍を本屋さんに自動的に配達してもらう等、テニス・スポーツ関連の書物と、教育・心理学等の本を多く読みました。

*35歳以降は、「アルビン・トフラー」「P・Fドラッカー」「大前研一」「堺屋太一」「日下公人」「落合信彦」「西部邁」「竹村健一」等の経済思想書や「小林秀雄」「立原正秋」「木村尚三郎」「阿川弘之」「会田雄二」「草柳大蔵」「桜井よし子」「藤原正彦」「養老孟司」等々、文化論的な書物を多く読んでいました。

*50歳位から「ワイン」関連の本を本屋さんから全て取り寄せて読みあさった事等も・・・・。

 私がそれぞれの分野で印象に残った本や、購入した本を紹介していきたいと思っています。
第一回目は
アルビン・トフラー(Alvin Toffler ) 「第三の波」
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 彼は、1928年 米国生まれの評論家、未来学者、作家。この本は1980年の出版と同時に社会に大きな影響を与えた経済的予言の書と云われている。
 1985年の秋に購入し、初めて読んだ経済思想書。大きな衝撃を受けて、ワクワクしながら一気に読んだ記憶が有ります。この後多くの経済思想書を読むきっかけとなった一冊でした。

■「波」の概念と「第三の波」
 トフラーは、経済的パラダイムシフトを「波」と仮定して社会の趨勢を表した。具体的には、
・第一の波【農業革命】
 狩猟採集社会であった社会が農耕社会へ。→日本で云う縄文中後期~弥生前期に相当
・第二の波【産業革命】
 18~19世紀に興った産業革命による社会システムの大幅な転換。→日本で云う明治初期~昭和期に相当
・第三の波【脱産業社会化(post-industrial society)】
 産業社会化からの脱却。情報革命とも言い換えられる。
■第三の波
 情報化社会下で非マス化・多様化が進んだ現代では、大量生産・大量消費を前提に組立てられた諸システムはもはや限界であり、新たな枠組みを模索する必要がある。第三の波=脱産業社会化は、単に新たな社会システムの構築に邁進するのではなく、その知識に基づいた農業・産業を進めるべき、これが第三の波の論点。産業革命と共に生まれた「肉体労働が産業を支える」という価値観は、皮肉なことに産業の発展と共に「教育を施された人間の頭脳が産業を支える」という価値観にとってかわる、と。
 いずれにしても、家庭用PCの黎明期であり、携帯電話が実用化されていなかったこの時代に、情報化社会の到来と それがもたらす社会構造の変革を詳細に記した本書の先進性に改めて驚く、30年以上前に書かれたものにも関わらず、現代においても十分読むに耐えるというのは驚く。言い換えれば、概ねトフラーが描いた青写真通りに時代が進んでいるということかな。

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